麗しの伝統芸、ありがとう匠の業

柴田善臣騎手が現役引退を発表しました。
https://www.jra.go.jp/news/202609/091501.html

僕が競馬を見始めた2003年は、それこそ先生が関東リーディングをひた走っていた頃で、中山のメインで先生を見かけない日はありませんでした。当時は馬券を買えない&2chの競馬板(角田晃一スレがあった競馬2板が主な生息地)に入り浸っていたので、先生がメインレースで人気馬を飛ばすのを見て「やっぱりヨシトミはメインでは信頼ならんわ」などと草をはやしていたわけです。

とはいえ、長く競馬を見ていると「いいかげんに先生はクラシックを勝った方が良いのでは」という気分になり、ノリちゃん&蛯名のダービー制覇と同じくらい、先生のクラシック制覇を応援することに。

先生が段々と「落ち目」になって苦労し始めると判官びいきが加速し、2011年の日本ダービーをもって立派なヨシトミオタが完成したわけです。ちなみにジャスタウェイの安田記念は、某社の採用試験が同日にあったので、霞が関で午前中に試験を受けて、その足で府中に乗り込み、インタビューまで見て羽田に向かい、夜の便で札幌に発つという強行軍で現地観戦しました。当時買ったジャスタウェイの単勝馬券はたぶんまだ取ってあるはず。なお馬連は外した模様。

そんな先生の代名詞といえば「伝統芸」こと4着。「普通の馬券は狙った馬が1~3着に入らないと幸せになれないが、ヨシトミオタは4着でも笑いで元が取れるからお得!」と誰かが言ったとか言っていないとか。

数ある「伝統芸」からオールタイムベスト5選を独断と偏見で選びたいと思います。なお競馬をちゃんと見始めたのが2003年以降なので、ホクトヘリオスとかマチカネタンホイザといった初期の名馬は入っていません。

第5位:2012年ヴィクトリアマイル キョウワジャンヌ
11番人気のキョウワジャンヌを3着とハナ差の伝統芸に導いたヴィクトリアマイルが第5位。ただ直線の挙動を見ると、相談役がここ一番で勝ち切れなかった理由が見え隠れ。直線でマルセリーナに進路を譲るシーンがあったんですよね。そのマルセリーナはそのまま脚を伸ばして3着。脚のある馬と併せ馬ができたからキョウワジャンヌも頑張れたというのはあるのですが、あそこを躊躇なく締められる騎手がきっとG1をポコポコ勝つんだろうなとも思った次第です。

番外編:2000年有馬記念 キングヘイロー
ちゃんと競馬を見始める前なのですが、このレースは何度も見たことがあるので番外編として。テイエムオペラオー包囲網と「テイエム来た!」の実況で知られるレースですが、包囲網に一切参加せず、キングヘイローのペースとリズムを守って、最後方から大外に進路を求め、4着に鎮座ましました姿はまさに王者の貫禄でした。上述する甘さと表裏一体ですが、馬のリズムを乱さなかったことで、その年にスプリントGIを勝った馬に2500mで良い走りをさせることができたのだと思います。ヨシトミイズムを感じるよね、ということで。

第4位:2017年阪神JF&2018年桜花賞 トーセンブレス
変則的ですが2レースを挙げるのは、ともに◎を打って「それ4」の往復ビンタを喰らい、財布が灰になったから。確か阪神JFはアメリカ出張前の成田空港の国際線ターミナルで見ていた気がします。ロサンゼルスに向かう前に真っ白になったゾ。

アーモンドアイ&ラッキーライラック&リリーノーブルに「トーセン&相談役&加藤征」の愛すべきズッコケ三人組(※褒めてる)でケンカを売りに行くのは、今から見れば蛮勇以外の何物でもないのですが、当時は勝負になると思ったのよね……。だいたいハープスターみたいなものだし、トーセンブレス。

「こうなれば次も狙ってやる!」と鼻息荒く待っていたオークスはまさかの出走取消。「牝馬G1でオール伝」の偉業はついぞ達成されることはありませんでした。

第3位:2013年3歳上1勝クラス ガチ
独特の「アタリの柔らかさ」(※アタリが弱いといったのは丸山元気騎手候補生)がある相談役はクセのある牝系を乗りこなすのが得意でした。代表例が日東牧場の聖母エイシンサーメットと同馬を祖とする牝系。能力があるのに気性がややこしく、脚の使いどころが難しい牝系キャラなのですが、ヨシトミ先生は華麗に乗りこなしていました。

それを確立したのがニットウビクトリーとガチだと思っています。特にガチはニットウビクトリーで掴んだ「前半とにかくソロッと乗って直線勝負」というエイシンサーメットの最適解(※ただしヴァーノンを除く)を相談役に確信させた存在として大きかったのではと。このレースでもとにかく序盤はひとつも拳を動かさず、3角から馬がハミを取ったのを邪魔せず、直線までジッとしていたのが印象的でした。

ニットウバジルも東京ダート1400mで4角16番手みたいな競馬で良いと思うんですけどね。エイシンサーメット魂で。

第2位:2006年のGIでの伝
2006年の先生はとにかくGIでの伝統芸が多く、この年だけでGI伝を4回。キャリアハイ(※ハイとは)の数字です。この4回はいずれも先行して粘り込ませたものでした。個人的にはこの年あたりがジョッキーとして相談役のピークだったのではなかろうかと。体内時計と騎乗技術が噛み合ったというか。

人気薄での伝が多かったのも特徴で、桜花賞アサヒライジングは9番人気、ヴィクトリアマイルのコスモマーベラスは16番人気、エリザベス女王杯アサヒライジングは5番人気、マイルCSマイネルスケルツィは16番人気といずれも人気以上の着順。

さらにテクニカルなのはエリザベス女王杯のアサヒライジングは上位入線馬の降着による繰り上がり伝統芸。相談役史上唯一の「GIでの繰り上がり伝」を記録した点でもエポックメーキングな年でした。

第1位:2011年東京優駿(日本ダービー) ナカヤマナイト
圧倒的1位はキャリア晩年の相棒ナカヤマナイトと臨んだ日本ダービー。

このレースはダービーを獲りに行った相談役が「キラー善臣」と化した4角がハイライト。いつも飄々とした騎乗をする先生が、泥だらけになりながら4角で1番人気オルフェーヴルを体当たりでブロック。「この馬に勝たなければダービー制覇はない」という勝負師の顔をビンビンにのぞかせたところに、日本ダービーの重さというものを感じさせました。「ダービーに勝ったら引退してもいい」と言ったのは叔父さんですが、それくらいの気持ちで乗っていたのではなかろうかと。

「キラー善臣」が発動したものの、相手は後に三冠を制し、日本競馬の悲願へ最も近づいた金色の暴君。ラスト200mで追いすがる力を失ったナカヤマナイトは、そこからオルフェーヴルにみるみるうちに引き離されると、ゴール前最後の最後で内から差してきたベルシャザールに交わされ4着でゴールイン。相談役に最初で最後の日本ダービーでの伝統芸をプレゼントしたわけです。

冒頭で「2011年の日本ダービーをもって立派なヨシトミオタが完成した」と書いたわけですが、あの4角~直線入口で脳を焼かれたのが全て。昼行燈(すみません)がヤル気を出すとカッコいいというのは必殺シリーズやパトレイバー以来の常識なわけですが、相談役もその枠に入ってしまったのが理由です。

願わくばあのダービーの「キラー善臣」をもう一度だけでも見てみたかった。あれ以来、鬼の顔をのぞかせることはなく、飄々としたベテランのまま引退していくのはもったいないような気がします。せいぜいジャスタウェイの安田記念で、コーセイの肘鉄に動じず押し返した時くらいか。

ということでざっと思いつくままに「ベストオブ伝統芸」をまとめたわけですが、あくまでこれは僕のなかでの順位づけ。きっと皆さまのなかにも「麗しの伝統芸」があるはずです。それをツマミにお酒でも飲んでみてはいかがでしょうか。

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